法人成りのメリット・デメリット(後半) 2019.5.7
前回の続きで、今度はデメリットについて考えていきます。
まず、個人は許認可を取る場合を除けば、税務署・都道府県・市町村に開業届を提出すれば手続は完了し、手数料は不要です。
しかし、法人の場合は、事業主が法人会社の基本的な規則である定款を定めて公証役場で認証を受け、法務局で法人設立の登記をしなければなりません。
定款の認証費用と登記の登録免許税で少なくとも約20万円を要し、そのほかにも会社の印鑑作成費用や登記簿謄本の発行手数料などの費用も考慮する必要があります。
さらに、手続が煩雑だという事で会社設立のための専門家に設立代行を依頼すれば、代行手数料も支払う事になり、様々な支出が発生します。
また、住民税に関しては個人より法人の方が、支払が多くなる時があります。
住民税は、複数の方法で計算された税金の合計額となっていて、代表的なものとして、所得に対して課せられる住民税(これを「所得割額」といいます)とその自治体に住んでいる又は営業しているということに対して課せられる住民税(これを「均等割額」といいます)があります。
赤字になったときに、個人だと住民税の均等割額は数千円(自治体によって金額やは異なります)ですが、法人だと数万円になります(こちらも自治体によって金額は異なりますが、都道府県で約2万円、市町村だと最低5万円で、合計約7万円は発生します。また東京23区は別の計算となります)
そして、複数の都道府県・市町村で営業を行う場合、個人だと自身の住所地等に属する1つの都道府県・1つの市町村に対しての住民税を支払えばいいですが、法人の場合は、営業を行っている都道府県・市町村すべてに住民税を支払う事になります。所得割額については、複数の自治体に支払う事になっても、全体額を按分してそれぞれの自治体に支払う(按分方法は複数ありますが、ここでは説明を省略させていただきます)ので、1箇所でも数箇所でも支払う税額に変わりありませんが、均等割額については、自治体ごとに定められた金額を支払う必要があり、複数の均等割額を支払う事になります。
具体的には、3つの市町村(いずれも同じ都道府県にあり)に店舗や事務所を構えていて、均等割額が都道府県2万円、市町村5万円(いずれも同じ金額とします)としたら、均等割額として支払う金額は2万円+5万円×3箇所=17万円となります。
金額以外の面で見ていくと、個人の時よりも法人は、経理処理・決算処理・申告書等作成等の事務作業の負担が増加する点が挙げられます。先述しましたが、法人の申告に関しては、申告書のほか数々の添付書類が求められ、より細かな情報を把握して記載する必要が出てきます。また会計上の処理と税務上の処理の誤差を埋めるための調整作業も必要となるため、専門性が求められ作成も困難になってきます。
メリットともデメリットともいえない点としては、社会保険の加入義務が課せられるという点があります。
一般的には社会保険の加入により費用が増加するので、これをデメリットと解釈しているケースが多いですが、社会保険料の支払いを会社の福利厚生の充実と捉えれば、これは必要経費であり無駄な出費だとも言えず、人材採用においては、福利厚生が充実している方が優秀な人材が集まりやすいというメリットもあるため、どちらともいえないと解釈しています。
ただし、これは第3者を雇い入れての事業拡大を考えている場合であり、家族経営での法人成りを考えた場合だと、費用増加をデメリットと捉えられる方が多いかもしれません。
また、個人の場合は国民年金と市町村の国民健康保険に加入することになり、国民年金は所得に関係なく一定額、国民健康保険は世帯ごとの所得によって保険料が決定しますが、法人の社会保険は給与の額によって保険料が決まり、そもそもの保険料の算定基礎となる金額が異なっています。
そのため、法人成りによる保険料の支払が、必ずしも個人で支払っていた保険料より多くなるとは限りません。
また、メリットともデメリットともいい難い点として、法人税は「おおよそ」税率が一定ということがあります。よく法人税は税率が一定だと言われますが、厳密に見ると、所得金額に応じて少しずつですが税率が増加し、だいたい所得に対する実効税率は、約25%から30%超となります(これは中小企業の軽減税率を考慮したものであり、大企業だと40%超からとなります)
一方、所得税は累進税率であり、最低実効税率は約15%ですが、最大実効税率はおおよそ40%後半と、法人税より幅が大きくなっています。
ちなみに、法人税率と所得税率がほぼ同じになる所得水準は500万円~800万円(共に実効税率約25%で、法人税は中小企業の軽減税率を考慮しています。また地域によって実効税率が多少異なってきます)となります。
さまざまな事を書かせてもらいましたが、一つ確実に言えることは、法人成りをすることが、必ずしもメリットともデメリットとも言い切れないという事です。
メリット又はデメリットだけにとらわれず、法人成りをするうえで発生するさまざまな影響を総合的に判断して、現状の個人事業でよいか法人成りすべきかどうかを決定していくことが大切です。
法人成りをすべきかどうかをご検討されている方は、当事務所の相談の程、宜しくお願いします。